2024/03/31
25周年を締めくくりに、主人公スパイク・スピーゲル役
山寺宏一さんによるインタビューをお届け
1998年にテレビシリーズの放送がスタートし、2023年に25周年を迎えた『カウボーイビバップ』。25周年を記念し、2023年9月23日には劇場版『COWBOY BEBOP 天国の扉』の上映イベントが実施され、10月27日〜11月19日にかけて「カウボーイビバップ25周年記念展」が開催。そして2024年3月には25周年記念の設定集「THE BOOK OF COWBOY BEBOP」が発売。そんな25周年のメモリアルとなった1年の締めくくりに、主人公スパイク・スピーゲル役の山寺宏一さんが登場。25年を振り返る思いを語っていただきました。
――『カウボーイビバップ』も25周年を迎えたわけですが、印象としてはかなり時間が経ったという感じがありますか?
山寺 四半世紀ですからね。収録に関しては随分と前にやったなという印象があります。だけど、今でもたくさんの人に「『カウボーイビバップ』大好きです」って言っていただけるんです。自分でも定期的に見直したくなる作品だし、最近も実写ドラマ版の収録前や、この間の25周年記念上映会でトークするということでまた全話見直したりもしましたが、見る度に本当に隅から隅まで面白いなと。25年が経って、時代を感じるところも多少はありますが、全く色褪せていない。一流の作品というのは、時間が経っても趣が出て、ますます面白くなるんだということを改めて感じました。
――それだけ、思い入れも深いということなんですね。
山寺 いろんな作品に出させていただいているので、作品ごとに比べたり、順位を付けたりしたくない。でも、自分が知る、自分が観てきた範囲の全てのアニメの中では、『ビバップ』が一番好きですね。それだけは堂々と、恥ずかしげもなく言いたい!
――そう言えるほど、クオリティが高い作品ではありますね。
山寺 そう思います。渡辺信一郎監督も仰っていましたけど、本当に最高のスタッフが集まってできた作品ですよね。スパイクに関しては、「他の人がやったらどうだったんだろう?」と考えることもあります。作品が素晴らしくて、セリフが素晴らしいので、他の人がやってもヒットしたのは間違いないと思いますが「自分だったからこそ良かった」と強く思いたい作品でもありますね。
声優が作品を演技でダメにするのは簡単なんですが、良くするのは本当に難しいんです。でも、結果的にいろんな方々から今も支持をいただいて、「一番好きな作品だ」と言ってくれる方も多いし、25年経った今でも劇場版の記念上映会、展示会があり、設定資料集が発売されるというのは、作品としてはもちろん自分がスパイクをやったことに関しても、皆さんから認めて貰っているのかなと。
――作品に関わり始めた当初のことは覚えていらっしゃいますか?
山寺 最初の段階から演じた手応えはあったんですが、第1話の出来上がりを観るまではなかなか分からなかったですね。タイミングとしては林原めぐみさんが出始めた頃、第1話が完成したということで、アフレコ前に皆とスタジオで映像を観たんですが、その時にもの凄く驚いたんですよ。ストーリーやセリフはもちろん、映像の仕上がりとそれに重なる音楽と効果音、全部が入ったことで「こんな面白いもの観たことないぞ!」と、その後の収録へ向けたモチベーションがもの凄く上がったのを覚えています。あの時、まだどこでオンエアされるとか決まっていなかったんですが、我々は「絶対に面白いからヒットしないはずはない」と確信したので、その先に向けた不安は無かったですね。
――いわゆるそれまでのアニメーション作品とは違う、洋画のような雰囲気を第1話からは感じましたね。
山寺 そうですよね。かつアニメならではの表現もいろいろ入っている。確かにそれまでの日本のアニメには無い感覚はありましたね。スタッフの「新しいものを作るぞ」というような志をもの凄く感じましたし、「こういうの、大好き!」って叫びたくなった衝動は忘れられないです。
第1話以降も多岐にわたっていろんなエピソードが描かれていって、縦軸になっているスパイクの過去、それぞれのキャラクターの過去の話はもちろん、それとはまったく関係のない話もたくさんあって。1話完結のようで繋がっているお話の紬ぎ方のバランスたるや本当に絶妙でしたね。監督も思いを込めたと仰っていましたが、アイキャッチの出し方なんかも面白かった。あとは、あの適当な感じで語る予告も忘れられないです。
――あの軽妙な感じの予告編は、アドリブでやっているようにも思えました。
山寺 アドリブのわけがないんですよ。もちろん、ところどころ言いまわしをいじったりもしたんでしょうけど。そういう端々まで、本当にどこをとっても素晴らしいという奇跡の作品だなと僕は思いますね。そこに参加できたことも本当にラッキーだとしか言いようがない。
25周年記念の上映会のトークで、渡辺監督から初めて聞いたんですが、信本敬子さんが僕を呼んだほうがいいと言ってくれたそうなんですよ。この作品に呼ばれていなくて、一視聴者として観ていたら絶対に嫉妬して「俺がやったほうが絶対に良かったのに」って思っていたに違いないです。
――それくらい、たくさんの思いがあったわけですね。
山寺 「宝物」なんていう言葉で言い表せないくらい、大事な、大事な作品です。一方で、たくさんの作品に出させてもらっているけど、僕自身は『カウボーイビバップ』のスパイクという役を越えられないという悩みもあるくらいですね。
――それは、キャラクターデザインをやられた川元利浩さんやメカニカルデザインを担当された山根公利さんも、同じよう「代表作だけど、それをなかなか越えられない」という思いは口にされていましたね。
山寺 やっぱり、スタッフの皆さんもそう思っているんですね。確かに、自信作や代表作と呼べるものはそんなにポンポン出ないですからね。『ビバップ』には、本当にいろんな思いがあります。劇場版の『天国の扉』は、テレビシリーズの後に後半のエピソードの間に起こった事件だということで映画化しているわけだから、スピンオフ的なアイデアのストーリーなんかはいくらでも作れるだろうと思いつつ、でも石塚運昇さんや信本敬子さんが亡くなられてしまったので、それをやるべきでは無いとも思います。
――満足はしているけど、もう少し演じたいという思いもあるということですね。
山寺 音楽業界だと、「もう、このバンドはやり切った」って言って解散したけど、なんだかんだで再結成したりしますよね。『ビバップ』も再結成をしてほしいという思いはあります。本当に、「運昇さんが生きていれば」って気持ちはあるし、一方でもうやらないから潔くて素敵なのかなって感じもしますね。
――そういう葛藤は、皆さんが持っていらっしゃるんだろうなと思いますね。
山寺 そうですね。だからこうして25周年みたいな形で『ビバップ』側から仕掛けることによって、再発見、再認識、再評価してもらえたら嬉しいなと思います。それこそ、「ブレイン・スクラッチ(第23話)」というエピソードでは、テレビやインターネットが宗教みたいになる話なんかは、今のスマホ中心の時代になって、それが原因でいろんな事件が起こると、そうした要素を先取りしていたように思うし、「ゲイトウェイ・シャッフル(第4話)」では、レストランにてデジタルメニューでオーダーするシーンがあったり。現金ではなくて電子マネーで支払うとか、あの頃は現実世界ではリアルじゃなかったものが、今や当たり前になっている。そういうテクノロジーなんかの先取りをしているような表現なんかも、改めて観ると凄いんですよね。僕らが昭和のアニメを観て「懐かしいな」という面白さとは違う。「あれ? こんなに前から、こんなことをやっていたのか」という発見があるので、今だからこそ別の角度から感じられる面白さもある作品なんですよね。
――山寺さんは、イベントなどのトークで、「『カウボーイビバップ』を観て面白いと思わない人とは友達にはなれない」と仰っていますね。
山寺 それは必ず言っていますね。自分の『ビバップ』に対する気持ちをどう言えばいいかずっと悩んでいて、その言葉を思いついた時に、「これが一番自分の気持ちを表してくれているな」と思えたんです。『ビバップ』を観たことがない人は仕方が無いですが、観て面白いと思えない、合わないという人とは、なかなか友達になれない。もちろん、違う価値観の人とも仲良くやれというのは重々承知なんですが、でもそう言いたい思いがあって。それくらい愛しているってことなんです。それこそ、自分の価値観を他人に押しつけちゃいけない。それが争いのもとになるわけだから。みんな違ってみんないい……ということは分かっています。でも、『ビバップ』に関しては、ちょっとは面白いって思って欲しいわけです。全26話もあって、劇場版もある。観れば絶対に好きになるよって。そういう思いは、今でも持っていますね。
――では最後に『ビバップ』ファンにメッセージをお願いします。
山寺 これを目にしているのは、きっと『ビバップ』を愛してくださっている方々だと思います。皆さんには、これからも引き続き心のどこかに『ビバップ』のことを留めておいてくれたら嬉しいです。『ビバップ』は痛快なエンターテインメント作品でありながら、かっこよく生きるためのヒントが散りばめられている気がします。面白いエンターテインメントというのは、生きる活力になると思いますので、25年経ってもワクワクできるこの作品をぜひずっとおそばに!
もちろん、時が経てば経つほど、『ビバップ』という作品を知らない人も増えてくるでしょうし、過去のものになっていくんでしょう。そんな時こそあなたの出番です。それでもきっと『ビバップ』は周りの方に勧めると感謝される作品だと思います。今は簡単にネットで作品のレビューなどを見ることができるので、そういうところに書き込みしてもらえるのも嬉しいですが、できれば周りの大切な人に勧めてほしい。すると「よくぞ教えてくれた」と感謝されるはずです。昨日までつまらなかった人生が、急に輝きだしたって言われる可能性もある(笑)。僕としては、そうして次の25年に繋げていってほしい。そして、ぜひ50周年を見届けたいなと思っております。運昇さんの分も、信本さんの分も長生きして『ビバップ』の魅力を伝えたいと思いますので、ぜひ皆さんも健康に気を付けつつ、協力して頂ければと思います。